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日本大学法学部 臼井ゼミナール

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【U10-REAL】臼井教授編 PART2

2017年08月17日

カテゴリー: U10-REAL 臼井教授

論文執筆の価値 

シリーズ第2回「科学的手法に基づく説得力」

 

私は過去10年間大学生や社会人院生へ論文執筆の指南をしてきた。もちろん私自身も国内外の共同研究者とともに論文執筆に日々悩んでいる。そこで浮かぶ疑問がそもそも個人にとって論文を執筆する価値とは何か?である。理系でもない文系の学生が果たして真理を追求できるのだろうか?企業に就職してから役に立つのだろうか?大学生はいかなる能力の修得を目指して論文執筆という荒業に挑むのだろうか?今回のブログではこの問題に対する私の考えを3回に分けて披露しよう(第1回のポストからすでに1年が経過しようとしている。本ブログは学生が主体であるため私の出番は少ないのである)。

 

第1回目の記事はこちら

 

私は論文執筆には人生を豊かに過ごす奥義があると考えている。

 

事実私は,論文執筆のみならず企業コンサルから子育て様々な交渉事においてもこの奥義を実践し豊かに人生を謳歌していると自負している。

 

論文執筆の価値,すなわち身につけることができる能力は3つある。
今回は第二の価値「科学的手法に基づく説得力」について考えてみよう。

 

1強い興味と関心に基づく読解力
2.科学的手法に基づく説得力
3.全体像と具体性を構成する力

 

 

 

 


 

2.科学的手法に基づく説得力

 

告白しよう。私が中学生,高校生の頃,良識ある諸先輩方や先生,同輩,両親によく言われたことがある。

「君の話には全く説得力がない」と。

悔しい思いの連続であったことをいまでもはっきりと覚えている。今になって思えば,当時の私の提案は個人的な体験や断片的な知識に基づくチープアイデアであった。大学ではアメリカに渡った。相手を説得するにはまずは英語力であると考えたが,絶妙なジョークや一芸などの社交スキルの方がむしろ必要とされた。

 

しかしやはりここでも英語力や社交スキルとは関係のない「何か」が足りずに私の説得力は未熟なままであった。そして社会人になってからも状況はあまり変わらなかった。

 

そこで起業して間もない頃実績のない私は,とにかく信頼を勝ち取るために人よりも早く行動すること,人よりも資料などをしっかり読み込み十分な準備をすること,人のやらないチャレンジングな体験に飛び込むこと,相手の話を聞くときは目を見てしっかりと耳を傾けることなど若者らしい行動力と態度を磨くことに努力した。

そうしているうちに,親ほども年の離れた社長さんやクライアントの部長さんが徐々に私の話に耳を傾けてくれるようになった。しかしこれだけでは大きな仕事には繋がらなかった。

 

 

 その後,会社に所属しながら大学院に通い始めた私は,日々のビジネスにおいてある変化に気づくことになった。私の話に高い関心を示してくれるクライアントや同僚,先輩が増えてきたのである。最初は業務の経験年数によるものだと感じていた。

しかしよく考えを巡らせてみると少し状況が異なることに気づいた。そこでひとつの結論にたどり着いた。「もしかして私の分析スキルが高まったのかもしれない・・・」と。

 

「これだ!」と私は確信した!すでに30歳を過ぎていた・・・。

 

 

 話は飛ぶが,その後30代半ばで大学教員になった私は,大企業の一線のマネジャーや企業経営者の方々にインタビューする機会に数多く恵まれるようになった。また社会人教育の場にも恵まれた。国内外の学会での丁々発止の議論も経験した。企業コンサルも手がけた。ときには厳しい場面もあっただろう。これら様々な場面を経験してわかったことがある。

 

私が経験したあらゆる場面では,大学教授であろうが起業家であろうが若手スタッフであろうが「科学的手法に基づく説得力」を持たなければ誰も話を聞いてくれないという現実のみが存在していた。肩書きや経験,断片的な知識は関係ないのである。

 

たとえ相手が聞いているように見えても,心に突き刺さる話をしていなければ,その場限りの大人の関係で終わってしまう。私自身をリスナーに置き換えても結論は同じだ。心に残る話は「血がにじむような努力の上に達成された稀有な成果」か「科学的手法に基づく説得力のある提案」のいずれかである。

 

 

優れたビジネスパーソンはこの双方を兼ね備えているというのが私の持論である。ビジネスパーソンは「科学的手法」にそれほど厳密ではないかもしれない。しかし,優れたビジネスパーソンは分析の際にたとえ我流であっても「科学的手法」に近づけようという強い意思を持っている(論理的思考と表現する方がいいかもしれない)。

 

 

なぜなら,特定のコンテクストに根ざした個人の成功体験と知識だけではグローバルビジネスでは通用しないことを優れたビジネスパーソンは身をもって知っているからである。

 

初めて会うタフな相手を短時間で納得させるためには「科学的手法」に基づく分析と提案が欠かせない。さもなければ,取り付く島もなく,会話にすらならないのがビジネスの現実だ。

 

 

 ここからが大学生にとって大事なのだが,成功体験を得るには社会人として10年以上の経験を積まなくてはならない。もしかすると20年かかるかもしれない。他者を説得するのに十分な成功体験(私はこれを「勲章」と呼ぶ)を得られる人はその中でもほんの一握りである。

 

しかし科学的手法は誰しも訓練を通じて身に付けることができる。

そしてもっとも良いことに,これは大学生から始められ獲得した能力は一生の宝となる

 

その意味ではこれは公認会計士や弁護士などのライセンスに近い。とくにグローバルビジネスにおいてこの能力は最重要となる。ともすれば科学的手法は,言語としての英語スキルよりも重要になる。片言の英語ではあるが効果的な表や図,データを使って,瞬時にタフな交渉相手や著名な学者を納得させることができるプロフェッショナル諸氏を私は知っている。

 

少し長くなったが,「科学的手法にも基づく説得力」はグローバルに活躍する人材が習得すべき第一の能力であるというのが結論である。

 

 

 それでは科学的手法とはどのような手法なのだろうか。

ここではその詳細には立ち入らないが,平たく言えば,網羅的な文献レビューに基づき正しい問いを立てること,そしてその問いを精度の高いデータを用いて正しい方法で分析することである。これが洋の東西を問わず分野の壁を越えて,建設的な議論の導出と他者の説得に大いに役立つ。

論文を執筆するためには,精度の高い文献レビュー,既存研究の穴を埋める意味のある仮説の構築,定性調査と定量調査を用いたデータ収集と分析方法,分析結果の解釈などの科学的手法を徹底的に学習しなくてはならない(第1回で述べた「強い興味と関心に基づく読解力」は精度の高い文献レビューには欠かせない)。科学的手法に基づけば,論理的に一貫した結論を提示できる。自身の提案を誰に対しても誠に説得的に提示できるのである。

 

 

 若者には行動力が備わっている(若者で行動力が足りない人は深刻ですよ!リスクを恐れず勇気を持って飛び込んでください!)。しかし若者はどうしても経験不足に見られがちである(私も悔しい思いをたくさんした)。結果として行動力や態度だけでは大きな仕事を任せてもらえないケースが多い。だからこそこの能力を大学生の頃から意識して磨くことにより,豊かな人生を創造するそのスタートラインに立てると私は信じている。この能力は一朝一夕に身につくものではない。習得のスピードには個人差もあるだろう。

 

しかしこれだけは断言できる。大学の研究室における正しい訓練により必ずこの能力は高まり,そして長い人生を生き抜く礎を提供してくれる。

私がこれを確信したのは30歳を過ぎていた。大学生の皆さんはどうだろうか。いまこそじっくり皆さんの長い人生を考えてみてほしい。以上が私からメッセージである。第3回の終章へと続く。

 

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